JR東日本の飲食事業を担うJR東日本クロスステーション(本社:東京都渋谷区)が、首都圏及び一部関東の約60店舗で「国産ジビエ 鹿肉カレー」の期間限定での販売を開始した。
9月17日(火)にはマスコミ向け試食会を開催。同社の外食事業部 常務執行役員の坂下佳久氏、外食事業部カフェ営業グループ担当部長 権田耕一氏、商品戦略部 時田晃一郎氏と、メニュー監修やジビエ調達で協力した一般社団法人日本ジビエ振興協会 代表理事の藤木徳彦氏が登壇した。
アウトライン
試食会の冒頭、坂下氏が「今年は15年目の節目」と述べたとおり、JR東日本グループのジビエの扱いの始まりは2010年に遡る。当時、鹿と列車の事故が問題化しており、その対策の一環として長野支社で初めてジビエを使った駅弁「フレンチおつまみ」を発売したのが最初のジビエの取り組みだ。JR東グループの「地域再発見プロジェクト」が始まり、地域との連携強化に力を入れていたことも背景にある。以降、都内でジビエを使ったカレーやホットドッグ、ハンバーガーなど、さまざまなメニューで少ない店舗数から実験的に販売を開始し、徐々に拡張してきた経緯がある。
現在の鹿肉カレーは2022年に始まったもので、今年で3年目。メニューの開発を担当した時田氏によると、鹿肉は筋、軟骨を丁寧に取り除いた13mmの粗挽きを使用しており、カレーのルウの中でも十分な存在感がある。しっかりと炒めた玉ねぎ、フルーツチャツネで甘味を出し、クミンシード、キャラウェイシードを加えて「穏やかな辛さと、甘さ、ほろ苦さを感じられる味に仕立てた」(時田氏)という。
2022年は「ベックスコーヒーショップ」ライスメニュー取り扱い店の57店舗で1万5000食、2023年は同じく55店舗で1万5000食と、ベックスコーヒーショップのみだったが、今年は異なる4業態でも同メニューを展開する。
・次世代カフェ「5 CROSSTIES COFFEE」5店舗
・カレー専門店「SPICE FACTORYエキュート品川」
・レストラン「STATION RESTAURANT THE CENTRALグランスタ東京」
・カフェ「JAPAN RAIL CAFE TOKYO」
ベックスコーヒーショップと合わせ全5業態で1万4000食を提供。価格も業態によって単品で1050円~2000円の幅がある。この他にもJR東の社員食堂でも販売するという。
試食会には、食文化研究家の畑中三応子氏も参加しており、「鹿肉の存在感があり、ジビエ料理もここまで来たかと感じる出来栄え」と高く評価。ライスは十六穀米、クミン、キャラウェイなどしっかりと利いているスパイス、食感など、「現在のカレーのトレンドにアジャストしている点もすばらしい」と話す。
ジビエとJRの関わり
JR東とジビエの関わりは先述の通り長野県でスタートしたものだが、ジビエ協の藤木氏によると「ジビエ振興はJR東抜きには進まなかった」ほどの関わりであったという。
ジビエに関する制度が整備されたのは、2014年に厚生労働省が策定した「野生鳥獣肉の衛生管理に関するガイドライン」が最初だが、JR東はそれ以前から扱いを始めている。
「ガイドラインのないうちからジビエを扱うのは、今考えると大手外食事業では信じられないくらいのチャレンジ。ジビエ利活用に向けて大きな風穴を開けてくれた。また、当時は高級な個店でのジビエの扱いはあっても、誰でも気軽に食べられる料理として扱う飲食店はなかった。JR東によってジビエが『ちょっと食べていこう』という料理で登場した。その点でも画期的だった」(藤木氏)
また、現在の国産ジビエ認証のような、衛生管理を担保する公的な制度の必要性を示唆したのもJR東が最初だったという。国産ジビエ認証の衛生管理の骨子策定にあたっては、JR東からの全面協力もあったそうだ。
ジビエの意義と収益性
社会貢献、地域活性化を背景にしているとはいえ、15年も続けるには事業性も必要だ。関係者によると、昨年までの鹿肉カレーは、事業性でいえば「とんとんくらい」。今年業態を増やしたのも、収益性を高めるための施策の一環だという。
社会貢献性はどのように評価されているのか。坂下氏は「JR東グループ全体で社会貢献、地域活性化に取り組んでおり、その中での評価を重視している」としつつも、世界的にESG投資の機運が高まっていることに触れ、「その意味でも国産ジビエを使ったメニュー展開の意義はある」と話す。
権田氏は、継続している理由について「販売者の立場からするとお客様の反応が大きいから」だという。ウェブ上のリサーチ、店舗アンケートなどから、鹿肉カレーはリピート率が高いことが明らかになったそうだ。
「単価が高いため、他のフェアメニューに比べ全体の販売数は少ないが、リピート率が異常に高い。5人に1人が繰り返し食べていることが分かった。SNSなどでつぶやかれる率が高く、それがしかも前向きなものが多いのもジビエの特徴だ」(権田氏)
SNS上での消費者の発言は、味や美味しさだけでなく、ジビエの社会貢献性、自然環境保護などにも触れられることが多いという。そのため、今年は消費者とのコミュニケーションに力を入れ、店頭バナーやポスター、映像に深閑とした森のイメージを採用し、キャッチフレーズも「森のめぐみをいただくカレー」とした。今年は初めてトレイライナー(トレイに敷く紙)にプロモーション用のビジュアルとメッセージ、国産ジビエ認証制度の説明なども入れた。映像は駅中のコンビニエンスストア「NEW DAYS」のサイネージで流す予定だ。試食会では、有害鳥獣捕獲の従事者や、ジビエの食肉処理施設事業者のインタビュー映像を流すなど、現場からのメッセージを伝えることにも努めている。
ジビエが儲かるのかどうかと言えば、原価が高いためにおそらくは微妙なライン上にあるのだろう。しかし、エシカルな事業はロングテールであるのが普通だし、ジビエは高いメッセージ性があるというのがJR東の認識のようだ。長期的な視点からグループ全体に対するメリットがあると捉えられていることがうかがえる。
今後
1万4000食で使用する鹿肉の量は、レシピベースで620kgと決して大きなものではないかもしれない。しかし、期間限定とはいえ、ジビエメニューを毎年続けていることの意義は大きい。藤木氏は「JR東のような大手が扱ってくれることは、何よりも地方でジビエ生産に従事する捕獲者や施設の事業者にとって大きな励みになる」と話す。
また、ジビエを受け入れない加工事業者はまだまだ多いが、「今後JR東が継続して使用していくことで、意識も変わっていくのではないか」と話すのは商品開発部の時田氏だ。3年前から鹿カレーの製造を委託しているのは、スープ類の製造に定評のあるキスコフーズだが、最初はジビエを扱うことに難色を示したという。
「ソーセージなどの食肉加工も含め、ジビエを扱うことに対し慎重または拒否する事業者はけっして少なくない。キスコフーズからも、ジビエの衛生面を証明するため最初は4~5種類の書類の提出を求められたが、そもそも野生動物のために揃えることができない書類もある。最終的には、国産ジビエ認証を取得している肉であることが決め手となって受け入れが実現した」(時田氏)
実は、加工事業者がジビエを受け入れるかどうかは、もちろん衛生的な処理をされたジビエであることが大前提ではあるが、実績の有無によって大きく左右される面もあるのだという。「その意味で、JR東グループがジビエを扱っており、加工する事業者がいる、それが継続しているということが、業界全体に与える影響は大きいのではないか」と時田氏は言う。ジビエ振興は、さまざまな局面で前例がないことを理由に断られ、阻まれることが多い。JR東の取り組みによって飲食事業での障壁が減じていくことが期待される。
―15年目を迎えるジビエプロジェクトー9月から首都圏約60店舗で「国産ジビエ 鹿肉カレー」を順次販売し、取扱い店舗を拡大いたします。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000666.000082978.htm