毎月29日=ニクの日を目安に開催している「29の日ジビエを食べる会」(以下ジビエ会)が、7月30日(火)に開催された。
今回のテーマは「醤油×米×ジビエ」。
処理が良くなったことで、和食にも合うことはこれまでのジビエ会でも試され、確認してきたことだが(和食×日本酒×ジビエの回など)、さらに一歩踏み込んで、醤油をテーマにしてみた。醤油は「岡直三郎商店」のものを使用した。岡直三郎商店は天明7年(1787年)創業、230年余の歴史を持つ老舗で、今も群馬県で木桶で仕込む伝統的な製法を守っている。
今回、シェフが「国産丸大豆しょうゆ」「たまりしょうゆ」「国産有機再仕込みしょうゆ」の3種を取り寄せ、料理に合わせて使い分けをしてくれた。肉、醤油とくれば相棒にお米も必要になる。今回、山下食糧が肉に合わせてブレンドした特製のブレンド米を取り寄せた。
また、シカ肉は岡直三郎商店の工場がある群馬県から取り寄せた。群馬県は長く放射性物質の影響による規制がかけられ、ジビエの出荷ができなかったが、2023年11月に一部が解除され、高崎市・みどり市のシカ肉が販売されるようになった。食肉処理施設の運営、販売は箕輪(きりん)フーズ(群馬県高崎市)が行っている。
今回は、岡直三郎商店の将来の9代目もゲストで登場し、醤油についても教えてもらいながらの食事となった。メニューは以下の通り。
・韓国風鹿肉のスープ
・低温調理したロースト鹿(3種類の醤油)
・鹿サルシッチャ餃子 にら醤油ソース
・鹿肉のカツレツ
・鹿肉のハンバーグ
シェフは、「今回はどれもお米のおかずとなる様に意識した」と話しており、そこに特徴ある醤油をうまく組み合わせてメニューを組み立ててくれた。
韓国風鹿肉のスープ
鹿肉のスープは、味付けはたまりしょうゆだけ。シカ肉の細切り下茹でし醤油でマリネ。茹で汁にたまりしょうゆを加えて味を整え、マリネしたシカ肉とピーマンを加えた。これがシンプルだが、シカ肉の味、しょうゆの味がダイレクトに分かって面白美味しい。シカ肉の強さをしょうゆがしっかりと受け止めている感じである。
低温調理したロースト鹿(3種類の醤油)
シェフ「シンプルにローストした鹿と各醤油との組み合わせを見るための料理。ごはんと一緒に食べた時の醤油と鹿のマリアージュを楽しんでいただければと思いました」
群馬の鹿が想像以上に良かった。キメが細かく肉質が良い。味もしっかり乗っている。処理の腕が良いと年齢のいった雄鹿ほど味が良くなってくるが、そんな感じ。その味の乗った鹿肉を、しっかり受け止めてくれたのが醤油である。3種類とも基本的にキリッとした口当たりだが、その味わいの違いを楽しめた。ローストだが刺し身の気分でいただくことができた。
鹿サルシッチャ餃子 にら醤油ソース
サルシッチャ餃子はシェフが得意とするメニューのひとつ。これをにら醤油でいただいた。
シェフ「鹿肉で作ったサルシッチャにお米に合わせるため、刻んだにら(葉先)を合わせて、餃子の皮で包み焼き上げました。ソースは再仕込み醤油にたたいたにら(根元の部分)を混ぜ、エクストラバージンオリーブオイルでオイリーさと香りを加えました」
醤油ダレにオリーブオイルの組み合わせがまた絶妙で、サルシッチャ餃子の味が引き立てられた。
鹿肉のカツレツ
シェフ「鹿肉にしっかりと塩をして、そのお肉に衣をまとわせサクっと揚げました。醤油は3種類から自由に組み合わせて頂き、揚げ物でありながら鹿の淡白さをさらに印象付けさせ、醤油の切れのある爽やかな香りと風味でさっぱりとけど味わい深い味にまとまる様にしました」
これもまた醤油の力を思い知らされた一品。鹿肉のシンプルで淡白な味が揚げ物で膨らみ、それをキリッとした醤油が爽やかに受け止める。ローストと同様、醤油と鹿肉のマリアージュの見事な成功例だったと言えるのでは。
鹿肉のハンバーグ
ハンバーグは日本ジビエでは定番のひとつと言えるが、醤油と合わせることでひと味違う仕上がりとなった。
シェフ「鹿肉についていた脂の部分も余すことなく使い、シンプルであるが深みのあるハンバーグに仕上げました。醤油でシンプルなハンバーグにエッジを利かせ、完成するように仕上げました」
醤油と鹿肉という組み合わせを、イタリアンの立場からアレンジしてくれたシェフの腕前に感謝したい。どれも見事なお料理で、醤油とジビエのミックスアップの可能性を感じさせてくれた。今後も機会があればぜひ「醤油×ジビエ」にはチャレンジしてみたい。
また、今回前菜で青森県西目屋村の「熊ウィンナー」「熊ハム」をいただいた。西目屋には熊専門の処理施設があり、今年3月に加工品の開発を発表、7月に新発売されたばかりのもの。特にハムが熊の旨味を感じさせてくれる出来上がり。ウィンナーのほうは、熊らしさをやや抑え、食べやすい味になっている。問い合わせは道の駅 津軽白神「Beech にしめや」。
また、コースの途中で「海苔のコロッケ」も登場した。これは花岡海苔店の海苔を使ったもので、海苔の新たな価値の創出にチャレンジするヤマコフーズからご提供いただいた。
山下食糧のブレンド米「ニク」は、焼き肉などをイメージした、味の強いくっきりとしたお米だった。粒もしっかりとしている。丼モノにもよく合いそうである。鹿肉のさっぱりとした淡白な味わいと合うかどうかは、料理次第。
山下食糧は五つ星のお米マイスターが経営するお店。日本のみならず世界各地の米を取り扱うほか、自社で米を生産しており、東京に販売店、大阪に「respoir On picnic」というお米のフレンチレストランも経営しているという異色のお米屋である。